山本由伸投手がトレーニングの一環としてやり投げのジャベリックスローを取り入れたことで、ジャベリックスローは一躍有名になりました。野球選手には馴染みのなかったジャベリックスローについての紹介とトレーニング方法や効果などを説明していきます。
ジャベリックスローとは
ジャベリックスローは陸上競技のやり投げの小中学生向けの導入競技として開発されました。体の成長途上の小中学生には、やり投げのやりは重すぎて負担が大きいため、負担を軽減し、やり投げの技術習得ができるように考えられたのがジャベリックスローです。
体の成長に合わせて、やりの代わりに小学生ではジャベボール、中学生ではターボジャブというものを投げる競技です。山本由伸投手が導入したのが中学生向けのターボジャブです。中学生向けとはいえ、ターボジャブは300gあり、硬式球の規格である141.7~148.8gと比べると倍以上の重さです。
日本陸上競技連盟によるジャベリックスローの説明
ジャベリックスローで得られること
ジャベリックスローを取り入れる大きなメリットは全身を使ったフォームの習得と投げる力の強化ができることです。
全身を使ったフォームの習得
ジャベリックスローは野球のボールよりもはるかに重いため、野球では良い球を投げられている選手でもジャベリックスローは全く投げられない事が多いです。ボールは腕で投げていても球威が出たり、制球を安定させたりすることがしやすいです。
しかし、ジャベリックスローはその重さと棒状の形状のため、全身を使って正しく投げられていないと飛距離と軌道にはっきりと表れます。全身(下半身の力の伝達、体幹の安定、胸の張り・肩の可動域、腕のしなり)を使って投げられているかをチェックできます。
投げる力の強化
全身を使って投げられるだけでも投げる力が一気に強くなります。その上、ジャベリックスローを継続することで、ボールより強い負荷で投げる練習ができるので、投げる力の強化ができます。球速と回転数だけでなく、全身を使った高いレベルでのフォームの安定性が身につくので制球力もアップします。
速い球でも打たれる投手は腕の力で投げ、ボールの軌道が打者にとって打ちやすくなっている可能性があります。腕が強いと球質の問題だけでなく、制球にも問題が出やすいです。ジャベリックスローによって、全身を使ったフォームを身につけ、球速・回転数・制球力を向上させることができます。
ジャベリックスローの投げ方
下半身のポイント
最初のポイントとして重要なのが、軸足にしっかりと体重を乗せることです。軸足にしっかりと体重が乗っていなければ、後の投球動作に2つの問題が出ます。1つは力の伝達不足、もう1つは腕の動きです。
軸足が力の伝達の起点になるため、軸足に体重を乗せなければ、力の伝達不足になります。力の伝達がないと腕でパワー不足を補うため、故障につながります。もう1つの腕の動きは軸足に体重を乗せないと、腕を上げトップを作る時間ができず、腕のしなりが出せなくなります。
次のポイントは、体重移動で伝達したパワーを踏み出す足で支えることです。踏み出した足でパワーを支えることができなかったり、膝が外側に開いたりすると大きなパワーロスになります。踏み出し足で軸足のパワーを支えることで、上半身へ力を伝えられます。
上半身のポイント
足を踏み出すタイミングで上半身の動きも同時に注意するポイントがあります。体が(前方の肩が背中側に)開かないようにすることと、上体が前(投げる方向)に突っ込まないようにすることです。これらのポイントができることで、下半身のパワーが上半身へ伝わっていきます。
踏み出し足の着地後に、上半身の回転を始めますが、まず最初に前方の肩だけを動かし始めます。この段階では上半身を回転させるというよりも、前方の肩(肩甲骨)を背中に寄せていくだけです。前方の肩だけを動かすことで、肩甲骨の可動域を最大に使え、胸の張りが出ます。踏み出し足の着地時点で体が開いていないことで、この動きの力が使えます。
前方の肩を寄せるように動かしていくと、投げる方向に胸を張った状態で体が正対します。足を踏み出す段階で上体が突っ込んでいなければ、胸の張りと合わせて上半身の反りができ、体のしなりが使えます。
最終ポイントは上半身へ伝わったパワーを腕の振りにつなげることです。上半身の動作で最も重要なのが、胸の張りと上半身のしなりができるまで、手を上げた状態(トップの位置)から腕を振り出さないことです。それによって、投げる方の肩の可動域も最大に使え、腕のしなりにつながり、腕の力に頼ることなく、速い腕の振りが可能になります。
投げる方向に体が正対して、胸を張り、上半身をしならせてから腕を振り始めます。多くの選手が腕の始動が早く、下半身から伝わってきたパワーを活用できていないですが、腕の力はリリースの瞬間だけです。力を入れるというよりも、伝わってきたパワーで腕が振られ、リリースの瞬間に腕と指先にかかった負荷に対応するイメージです。
ボールと違って、全身を使って投げることで初めてジャベリックスローができます。全身が使えていないとジャベリックスローは飛ばないです。全身で投げるフォームができるまでは、故障を回避するためにも全力で投げないようにしましょう。
フォームが身につくと、やりの軌道がきれいになり、飛距離が出てきます。フォームが身につき始めても、力を強く出すとフォームが崩れ力の伝達が悪くなります。段階的に力の出し方を上げていき、力を強く出しても、正しく投げられるフォームを習得することを最初の目標にしましょう。
ジャベリックスローの状態別フォームのチェックポイント
やりが飛ばない
全身が使えていないです。以下のポイントの見直してみてください。
- 軸足に体重が乗っていない。
- 踏み出し足が開き、力が逃げている。
- 胸の張りが作れていない。
- 上半身のしなりがない。
特に上半身がしならないと投げ出す角度が下がるので、力を入れず、力を抜いてしなりを意識することと、力の伝達を意識してみましょう。力の伝達が上手くできると、軽く投げてもやりが飛んでいくようになります。
やりの先が下がる
軸足に体重が乗っていないか、腕の振り始めが早すぎるかです。
軸足に体重が乗っていないと、腕をトップにまで持ってこれず、腕のしなりが出ないです。トップまで持ってこれても、下半身からの力の伝達が弱く、腕の力でカバーして腕を振るので、しなりが出ないです。腕のしなりが出るように、軸足にしっかり体重を乗せるゆったりとしたフォームを意識してみましょう。
腕を振り始めるのが早すぎる場合は、フォームの最終段階で下半身からの力が腕に伝わる前に、先に腕を振り始めている状態です。腕の力が強ければある程度投げられますが、腕がしならないので、投げ出す角度が下がります。腕を使わず、腕が振られるイメージで投げてみましょう。
やりが上下に揺れる
飛距離が出て、やりの軌道(角度)に問題がなければ、リリース前に腕・指先に力が入っています。正しく投げ出せているので、やり自体は飛んでいこうとしますが、力が加わるのが早いため、やりの先を下げる力が加わっています。腕・指先の力を抜くようにしてみましょう。
飛距離は出ているが、やりの軌道(角度)が低い場合は、「やりの先が下がる」の原因も合わさっているので、特に腕の力を抜くようにしましょう。
矢が無回転で飛んでいく
スナップするタイミングが早く指にかからず指先が使えていないです。フォームはきちんと投げられています。ボールのようにスナップを利かせて投げると、指先がやりから早く離れて、やりに回転力を与えられないです。投球フォームができている投手に多いです。スナップのタイミングが早いので、スナップをせず、やりが指先にかかるようにするだけです。
利き手側に抜けて飛ぶ
体の開きが早いか、踏み出した足で力を支えられていないです。体の開きは、足を踏み出した時に前方の肩が開いていないかチェックしましょう。踏み出した足で力を支えられていない場合は、膝が開いていないかチェックしましょう。投げ終わりに背中側に倒れる場合は、膝が開いています。
様々な種類のあるジャベリックスロー
ジャベリックスローには重さ、長さ、様々な商品名があり、最初にどれを選べば良いかわからないです。それぞれの特長とどのような選手に適しているかを紹介していきます。
ターボジャブ
「ターボジャブ」は株式会社ニシ・スポーツの登録商標で、ジャベリックスローの競技の公式採用品です。重さは300g~で長さは70cmです。ジャベリックスローの公式競技で使われているので、中学生以上向けです。重さは300gから段階的にありますが、300gでも十分な重さなので、最初は300gから始めましょう。
「ターボジャブロングトム」という商品もあり、こちらは重さ500g~、長さ113cmです。中学生以上で「ターボジャブ」でトップレベルの投てきができる選手向けです。重さも長さも本格的なやり投げに近いので、野球の練習としては負荷が大き過ぎるので、ターボジャブで全く物足らない場合に導入を検討すればよいでしょう。
ターボジャベリン・トレーニングジャブなど
ターボジャブは競技公式採用品ですが、他メーカーから同じ重さ、長さの商品が販売されています。ジャベリックボールの競技では使えないですが、練習に使うには十分です。大きなメリットはターボジャブより安い価格帯になっていることです。中学生以上向けで重さ300g、長さ70cmから始めましょう。
フレーチャ(FLECHA)
山本由伸投手がジャベリックスローを練習に取り入れ、一躍有名な練習方法になったため、野球用にアイピーセレクトが開発した商品がフレーチャ(FLECHA)です。開発前は山本由伸投手もターボジャブなどのジャベリックスロー用品を使っていましたが、フレーチャ開発後はフレーチャを使っています。
野球用に開発されたので、ターボジャブなどと形状や重さが異なります。重さが少し重く400g、長さが少し長く73cmです。やりの先部分が球状で、やりの羽根部分が短く幅が広いです。重さがあるので、最初は300gのターボジャブなどから初めて、慣れてからフレーチャを使うのがおすすめです。
ジャベボール・ジャベリックボール
ジャベボールはターボジャブ同様に株式会社ニシ・スポーツの登録商標で、ジャベリックボール投の競技の公式採用品です。ジャベリックボール投は小学生向けのやり投げ導入競技です。笛がついていて、正しく投てきできると笛の音がなるように作られています。正しい投げ方が身につきやすい工夫がされています。
重さは140gで軟式のJ号(128.2~131.8g)よりは重いですが、軟式のM号(136.2~139.8g)と硬式の(141.7~148.8g)に近い重さです。小学生と成長途上の中学生が全身を使ったフォームを習得するのに向いています。ジャベリックボールミニもあるので、低学年や野球を始める前の練習に使えます。
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